企業理念が浸透しないとき、どこを見直すか理解・納得・実践を分けて考える
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理念は発表した。社内にも掲示した。それでも、仕事の進め方は変わらず、経営者だけが繰り返し説明している。「もっと伝えなければ」と感じていても、発信を増やすだけで解決するとは限りません。
言葉の意味が分からない人と、意味は分かるけれど会社の実態に矛盾を感じる人とでは、必要な対応が違います。賛同していても、仕事の条件が整わず実行できない場合もあります。
この記事では、企業理念が浸透しない原因を理解・納得・実践に分け、言葉の説明を補うべきか、会社の行動や仕組みを変えるべきかを考えます。
この記事の内容
暗唱できることと、仕事に生きていることは違う
社員が理念を覚えていても、それだけでは日々の仕事に結び付いているかは分かりません。「挑戦を大切にする」と言えても、どんな挑戦を目指すのか分からないままなら、何を始めればよいか迷うはずです。
パーソル総合研究所が2023年に公表した調査では、企業理念の浸透を「理解」「同意」「実践」「習慣」と分けて捉え、実践や習慣の割合は理解・同意より低い結果となっています。言葉を理解することと、実際に行動することを分けて考える参考になります。パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」
自社でも「浸透しているか」という一問で済ませず、どこで困っているのかを聞く方が、必要な対応を考えやすくなります。同じ人でも、意味には賛同しながら会社の対応には疑問を持つなど、複数の状態が重なることがあります。
| 社員の状態 | 知りたいこと | 対応する場所 |
|---|---|---|
| 言葉を知らない | 日々の仕事の中で触れる機会があるか | 理念に触れる機会 |
| 意味が分からない | どの言葉が、どんな理由で分からないか | 背景や具体的な説明 |
| 意味は分かるが納得できない | 理念と食い違う経験や、疑問があるか | 経営の説明と実際の行動 |
| 賛同しているが実行できない | 何をしようとして、どこで止まったか | 権限・時間・情報などの条件 |
意味が分からないなら、何のための言葉かを伝える
例えば「挑戦」という言葉でも、新しいことを始めれば何でもよいのか、会社が目指す未来へ近づくために今の方法を変えるのかでは、意味が違います。挑戦を求められた社員が戸惑っているなら、まず何を実現するための挑戦なのかを伝える必要があります。
「この理念を、新しく入った人に説明するとしたら、どう話しますか」と聞いてみると、受け取られている意味が見えてきます。正確な言い回しを覚えているかを試す質問ではありません。どこが理解され、どこが分からないままになっているかを知るための対話です。
理念の背景を説明するときは、経営者がなぜその未来を目指すのか、今の事業がどうつながるのかまで伝えます。過去の出来事を話すだけでは、社員にとって「それで、これから何をするのか」が残ってしまいます。
具体的な仕事を例にすることはできますが、部署ごとに別の理念を作る必要はありません。同じ理念を、それぞれの仕事との関係から理解できるようにすることが大切です。
納得できないなら、言葉と会社の行動の隔たりを見る
挑戦を大切にすると言いながら、うまくいかなかった提案を報告した人が、理由も聞かれず責められる。そんな経験があれば、意味を理解していても「本当に挑戦してよいのか」と疑問を持つでしょう。
ここで同じ説明を繰り返しても、疑問の原因には届きません。何が起きたのか、どの対応が言葉と食い違っていたのかを聞き、経営者や管理職自身の行動も振り返る必要があります。
もちろん、目指す姿を掲げた時点で、会社のすべてがそのとおりになっているとは限りません。大切なのは、現実との差を認めたうえで、何を変えていくかを示すことです。
例えば、結果だけで提案を退けていたなら、試した理由や得られた学びも聞く。その後の判断にどう生かすかまで話す。こうした対応が伴って初めて、社員は掲げられた言葉と会社の意思を結び付けて受け止められます。
実行できないなら、本人の意識だけを問題にしない
挑戦に賛同していても、新しい方法を試す時間がない、誰の承認が必要か分からない、通常業務の量が変わらない。そうした状態では、意欲があっても動き出せません。
まずは、何を試そうとして、どこで止まったのかを具体的に聞きます。時間の不足なのか、判断できる範囲が不明なのか、必要な情報が手元にないのか。止まった場所によって、整える条件は変わります。
挑戦を大切にすることは、あらゆる試みを無条件で認めることでもありません。使える時間や予算、顧客に影響を与える前に相談する範囲を決めておけば、試してよいことと、事前に話すべきことを区別できます。
賛同しているのに動けないなら、理念を覚え直すより、実行できる条件を整えることが先です。
一つの仕事で確かめ、対応した後の変化を見る
原因を考えたら、最近の仕事を一つ取り上げて、何を変えるかを決めます。「挑戦が足りない」と会社全体を評価するより、実際に見送った提案について話す方が、具体的な事情に近づけます。
提案者は何を変えたかったのか。それは会社が目指す未来にどうつながるのか。見送った理由は何か。こうして話すと、説明の不足だったのか、判断への不信だったのか、実行条件が足りなかったのかを捉えやすくなります。
対応した後は、説明会を何回開いたかだけでなく、その仕事がどう変わったかまで振り返ってください。例えば、承認範囲を明らかにした結果、提案が検討に進んだのか。まだ止まっているなら、別の条件が残っていないか。取り組みを実施したことと、問題が解消したことを分けて捉えます。
理念そのものを見直す必要があるのは、どんなときか
背景を説明しても会社の目指す方向と結び付かない。一つの事業は説明できても、別の事業が理念の外に置かれてしまう。複数の言葉が矛盾し、何を大切にする会社なのか伝わらない。そうした場合には、理念の考え方や表現に戻る必要があります。
一方、意味は通っていて、会社の行動や実行条件に問題があるなら、そこを改めることが先です。理念文を変えるだけで、働く人の経験まで変えられるわけではありません。
自社の問題が言葉そのものにあると感じたら、次は、受け継ぐ意味と変える部分を考えてみてください。見直しの記事では、考え方・表現・説明・運用のどこへ手を入れるかを、事業が広がった会社の例とともに解説しています。
